今回のタイトル、「くだらない権利侵害」を次のように定義します。
「客観的には権利を侵害していると考えられるが、権利侵害に当たる発言の信憑性があまりに低く、被害者の名誉や社会的地位、信用が全く傷つけられていない」
具体的な法律で言うと「名誉毀損罪」「業務妨害罪」にあたる犯罪を想定することとします。
あまりにも取るに足らない、根拠のない発言であって被害者が何の痛手も受けていないと考えられる場合(あるいは、めったにないケースだと思いますがかえって得をしてしまった場合)、犯罪になる可能性はあるのでしょうか。そもそも「被害者」と言えるのでしょうか。
実例を挙げないと想像しにくいかもしれないので次のような例を考えてみます。
(例1)壊れないとされる丈夫な椅子をテレビの生放送で壊したが、なぜか売上や評判が伸びた。
(例2)品質が高いハンドメイド素材の悪評を流したが、評判や売上に何の影響もなかった。
(例1)は椅子が壊れたのは過失なので今回の件にはあまり関係ないと思われます。書きたかっただけです。
(例2)のような場合について、評判が落ちたり業務が妨害されたりという実害は発生していません。このような場合はどう扱われるのでしょうか。
名誉毀損罪や業務妨害罪の構成要件は「抽象的危険犯」とされています。難しい言葉なので簡単に言うと「権利が侵害されたという事実や証拠は必要ではなく、侵害が発生する危険があれば犯罪として成立する」という意味です。
名誉毀損の場合は「被害者の社会的評価が低下する危険が生じた」というだけで成立するという解釈が一般的です。業務妨害についても、実際に被害者が得るべき利益を失ったかどうかではなく、利益を失う危険が生じただけで成立するとされています。
もし成立しないのなら、社会的な信用が高いのでくだらない発言で信用が傷つくことのないような人物や企業に対して何を言っても許されることになってしまうので、一般的な感覚からしても権利侵害の危険が生じた時点で罰する必要があるというのは理解しやすいように思います。
ということで、「くだらない権利侵害でも犯罪になる可能性が高い」というのがタイトルに対する回答となります。
(参考リンク:
【名誉毀損罪(構成要件と公共の利害に関する特例)】
偽計業務妨害罪)
偽計業務妨害罪の例として、これがインターネット上の犯罪で適用されるのはいわゆる爆破予告など、人物ではなく場所をターゲットとした犯行予告の類が多いのですが、ずいぶん懐かしい事件を見てしまいました。参考リンクとして貼るのは少し抵抗がありましたが、参考にしたので載せておくことにします。
嫌な事件だったね…。