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誹謗中傷の加害者が起こした殺人事件 


本日は2018年に起こった「福岡IT講師殺害事件」について扱います。「インターネット上の誹謗中傷は実害がない」というそれまでの一般論を覆す恐ろしい事件でした。


また、今回の記事は「誹謗中傷の加害者による逆恨みの恐ろしさ」を注意喚起するためのものであり、特定の人物を名指しして殺人犯予備軍などと称する意図はありません。

被害者:通称「Hagex」
はてなダイアリーで活動していた著名なブロガー。主にネット上のトピックの批評などを投稿していた。インターネットセキュリティ会社に勤務し、イベントでの講師も務めていた。

被告:通称「低能先生」
はてなブックマークやはてな匿名ダイアリーで様々なユーザーに誹謗中傷をしていた。他人を誹謗中傷するときに「低能」という言葉を多用していたため、「低能先生」という通称がついた。違反行為からはてな運営にも目を付けられ、たびたびアカウントを作り直していた。

事件の経過

2018年5月 被害者が被告の迷惑行為に関する注意喚起と対処法をブログに投稿
これをきっかけに多くのユーザーが被告を通報し、アカウントがたびたび凍結される。被告がこの件について逆恨みしていたことも動機の一つであると考えられている。
注意喚起を見たユーザーが自己判断で迷惑ユーザーであった被告を通報していただけだが、被告は多数の通報により誹謗中傷をする場を失う。被告は「集団リンチを受けている」と思い込み、被害者や多数のユーザーに対する逆恨みを募らせる。被告が考える「集団リンチ」は独自の裁量によって定義されているものと考えられている。(参考リンク参照)

2018年6月9日 第三者により直接の動機となる煽りコメントが投稿される
「低能先生に人を殺せる筈がない」というコメントである。
被告はこれ以前にも被害者などの人物から「ネット弁慶」と揶揄されていた。被告のアカウントを凍結に追い込んだ多数の人物を逆恨みしていたが、IT講師をしていて身元とどこに現れるかが明らかである被害者に怒りの矛先が向かう。

2018年6月24日 事件発生
被害者がIT講師として福岡県の創業支援施設に訪れることを知った被告が待ち伏せし、セミナー終了後に被害者を刺殺。被告は「おいネット弁慶卒業してきたぞ」との犯行声明を投稿した後、警察に出頭。

2018年11月20日 福岡地裁により懲役18年の判決が確定

(参考リンク:
福岡IT講師刺殺事件、被告人が憎んだ「集団リンチ」をHagexさんはしていたのか?
低能先生はなぜHagex氏を刺殺した?報道とは違う“ネット民が見た経緯” )

見解

事件が起こったことは知っていましたが、自分にはあまりにも無関係な気がして当時は多くのニュースの一つとして流し読みしていました。
犯人の動機は、事実無根のものもありますが本人の主張からすると、
・被害者が主導する集団リンチを受けていると思い込んでいたこと
・多数のユーザーの通報によりアカウントが凍結され、誹謗中傷の場を失ったこと
・第三者から「人を殺せる筈がない」という煽りを受けたこと
のようです。
今になって読んでみると「アカウント凍結などで主張の場が奪われたら解決するどころか取り返しのつかない事件の動機が発生するのではないか」「顔や名前、イベント情報を出して矢面に立って迷惑行為を止めようとする人が狙われるのではないか」「このブログも命がけでやるつもりが必要ではないか」などと思いましたが、あらぬ被害妄想を恐れるのではなく、第二の加害者や被害者を生まないようにはどうするか考えなければなりません。

この事件に至るまでに被告は様々な恨みを被害者をはじめとするユーザーに持っていましたが、事件の引き金となったのは「人を殺せる筈がない」という煽りコメントに対する報復の感情で、「ネット弁慶でないことを証明するには人を殺すしかない」という考えに至ったとされています。被害者とも全く無関係な匿名の第三者が動機となってしまったのです。

とはいえ、インターネットで誹謗中傷をしている多くの人は自分は罰されないと思っている程度には愚かでも、殺人のような明らかな刑事罰の対象となる行為をするほど愚かではない人がほとんどです。このような煽りに安易に乗るほど愚かな人はそうそういないとは思いますが、念のため取り上げることにしました。
第三者が無用な煽りをすると、怒りの矛先が矢面に立っている人に向かい、取り返しのつかない事態を招くかもしれないということがこの事件からわかりました。迷惑行為があれば黙々と報告や通報をするに留めておくことがこのような事件を防ぐのにある程度は有効であると考えられます。

Posted in その他の権利侵害全般

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